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-在学生、卒業生、センター開催プログラムの講師、教職員などセンターにゆかりのある方々に、授業の様子、学校生活、仕事、日常生活について、様々な視点から自由に書いていただきます-

エンパワーメント・センター ブログ#7

ロールモデルとしての安井てつ先生

 ちょっと畏れ多い気もしますが、東京女子大学第2代学長、安井てつ (1870-1945)先生の人生を振り返ってみましょう。先生は、15歳のときに「教育者になろう」と決意して以来、学びと実践を続けられました。本学へは、1918年の設立に際して48歳で初代学監として招かれ、その後53歳で学長に就任、70歳で退任するまでの22年間を教育者として尽くされました。75年の生涯のうち、本学に関わるのは人生の後半期にあたります。

 日本の学校での学びは、高等師範学校女子師範学科(現 お茶の水女子大学)を卒業した20歳まで。卒業後は、母校の教員を振り出しに、恩師の勧めで岩手県尋常師範学校に赴任、24歳で再び母校に戻り教員として働きます。27歳の時に教育学、家政学研究を命じられ英国に留学し、ケンブリッジのトレーニング・カレッジで3年間の学びを経て帰国、母校の教授兼舎監となります。34歳の時には、シャム国政府の招聘で、バンコク府皇后女学校教育主任として、教育のみならず学校運営全般を3年間にわたり経験します。帰国の際に私費で英国に渡り、ウェールズ大学で倫理学、ギリシャ哲学、英文学を学んで38歳で帰国します。帰国後の仕事は白紙でした。その後紆余曲折があり、冒頭に述べたように本学にやって来られたのは48歳です。新渡戸稲造初代学長が不在の中、学校運営を支え、70歳まで本学のために尽力されました。

 こうしてみると、基礎的な学びの後は、仕事、留学、仕事、海外赴任、留学を繰り返し、不遇のなかで仕事をする時期を経て、東京女子大学設立というビッグプロジェクトに出会われたことがわかります。それまでの経験のすべてを東京女子大学で活かすことができたとも言えるでしょう。

 私はエンパワーメント・センターの契約職員を経て、現在、同窓会役員をしていますが、安井てつ先生が同窓会第2代理事長でもあることを知り、改めて先生のことを勉強させていただきました。その中で、先生が卒業生の行く末を常に暖かい眼差しで見守っておられたことに強く感銘を受ける一方、彼女の人生が必ずしも常に順風満帆だった訳ではないことも知りました。ひとりの人間として生き抜いた姿は、いまを生きる女性のロールモデルでもあります。その意味では、近づきがたい偉大な教育者という面に怖じ気づくことなく、彼女の人生の全体を知ることで、もっと親しみを感じていただけたらと願っています。

滑川 佳数美(1984年文理学部社会学科卒)

*写真はお茶の水女子大学デジタルアーカイブズより、明治23年(1980)年3月高等師範科卒業写真。安井てつ先生(20歳)は前列右から2人目。