ピアノ調律師/校正士

2011年 文理学部哲学科卒業 

 

 

 

 創立100周年おめでとうございます。
時代も変わり、次の100年はどのような時代になるのでしょうか。

 1995年(平成7年)、ちょうど阪神淡路大震災の直後に私は小学校に入学しました。入学式の日は桜が満開だったことを覚えています。そして、2011年(平成23年)、東日本大震災の直後に東京女子大学を卒業しました。卒業式は震災の影響で残念ながら中止となりました。卒業証書を受け取りに行った日のキャンパスは世の中の混乱からは隔離されたような、でも日本中の悲しみを受け止めているような不思議な閑かさに包まれていました。学生生活は平成を代表する二つの大震災に始まり、一区切りとなりました。

 私は現在、フリーのピアノの調律技師として個人のお客様宅や音楽教室様、サロンホールのピアノのメンテナンスを行う傍に、書籍の校正業務を自宅で引き受けています。
 卒業後は医療系の編集プロダクションに勤めましたが、じきにピアノ調律技師の養成所へ。修了後は調律師の仕事だけでは生活が不安で、教育系の出版社勤務とのダブルワークを数年続け、結婚を機に現在の形に落ち着きました。
 実は日本や欧米諸国のピアノ離れは深刻で、世界規模で調律師はダブルワークの時代が来ています。楽器店を掛け持ちする調律師もいれば、私のように違う職種を持っている調律師もいて、様々です。

 

愛用のチューニングハンマー

 調律師の仕事は深く哲学と関わっている(!)と思っていて、調律理論は古くピタゴラスから学びますし、哲学の美しい言葉や思想の数々に夢中になった経験も音作りに活きていると思います。<調律>という言葉は多くの哲学者が用いてきましたが、美しい調律において大切な<ハーモニー>音楽にとどまらず、日常のなかでも大切だと思います。
 いつでしたか、佐々木能章先生が「哲学は希望を語らなければならない」と仰っていらしたことを思い出します。先生の仰っていた意味とは異なるかもしれませんが、もし心の安まる時間のそばにピアノや音楽があるならば、それらを介して少しでもお客様に希望を感じる時間をお届けしたい、そんな想いで日々奮闘しています。

 どんな時も自分で考え、自分の足で歩いていくと辛いこともあります。そんな時に私を支えてくれる強さは、東女で培ったものだと思うのです。