イラストレーター

1988年 文理学部日本文学科卒業

 

私は卒業後、メーカーで商品企画を担当した後、出版社の編集職を経て、フリーランスのイラストレーターになりました。在学中の専攻は、日本の近現代文学です。

イラストレーターを志したきっかけは、ただイラストの仕事がしたかったから、という「憧れ」の気持ちの一点に尽きます。30歳を過ぎてしかも絵を描くスキルもないのに、無謀な決断だと言う人もいました。でも、当時多忙だった私は、環境が整ったらとか、技術を身につけてからなどと考えていては、一歩を踏み出せないまま終わるような気がしたのです。どの世界にも完璧というものは存在しないし、何かを求めつつ精度を高めていく道もあると、今なら言葉にできますが、まあ当時は勢いだけの決断でした。

当然の結果として、独学ゆえの苦労もしましたし、挫折することもしばしばで、自分の持ち味とは何なのかを常に考える日々でした。そんなとき心の大きな支えとなったのが、大学で学んだ文学への想いです。私は現在、書籍などの主に読み物のジャンルの仕事をしていますが、イラストを描く上で、作品に寄り添い洞察し、現れてくる普遍的な事柄をすくい上げることは大切な要件だと考えています。それはまさに大学のゼミや卒業論文の作成で身につけた視点であり、すべてのことに応用の効く私の大きな強みだと気づいたのです。

文学に限らずリベラルアーツに触れることで、私は自分の核となる大きな土台を作ることができたのだと思います。スピードや成果が尊重される現代ですが、自分の想像を超える学問の世界に触れることが、ゆっくりと自分を育てることもあるのだ、と学生さんには伝えたいです。

また、在学中に損得を抜きにした人間関係を持てたことにしみじみとありがたさを感じます。恩師である国岡彬一先生には、絵本を出した時に推薦文をいただいたうえに「このような仕事を続けて行くなら、大河小説を読みこなして自分の作品を作ってみたらどうか」とご助言いただき、忘れられない一言となりました。寮生活をともにした同級生や先輩後輩は、今も理屈抜きで応援してくれますし、同窓生は大学が同じということで信頼して人を紹介してくださったり、東京女子大学のゆかりの方々は本当に温かいです。

文学をテーマにしたオリジナル作品。『赤毛のアン』より。

大学時代に何を得たかは、卒業直後よりも歳を重ねるごとに強く感じるようになります。すべてが大切な財産です。だから、今の自分に何もないと思っている人がいるなら、そうではなくて、入学した時点であなたにはたくさんのものが与えられている、と伝えたいですね。