東京女子大学副学長
東京女子大学現代教養学部国際社会学科教授
前エンパワーメント・センター長

1974年 文理学部社会学科卒業

 

エンパワーメント・センターの誕生

 

東京女子大学エンパワーメント・センターは、卒業生の生涯にわたるキャリア構築を支援するために、2013年4月1日に開設された。私の手元に残された書類を見ると2003年には教授会でセンターの設置が提案されているから、実際に形になるまでに、10年近い歳月を要したことになる。「卒業生101のストーリー」の最後に、エンパワーメント・センターのストーリーを加えてみたい。

エンパワーメント・センターの誕生には、ふたつの要因が影響している。ひとつは外的要因で、牟礼キャンパスの再開発計画である。牟礼キャンパスは1966年設立の短期大学部の拠点であり、1988年からは現代文化学部のキャンパスとしても使用されていた。1997年に現代文化学部が善福寺キャンパスに移り、牟礼キャンパスをどのように利用するのかの意見聴取が行われたのである。それは、大学の社会貢献が問われ始めた時代でもあった。本学でも、2003年夏に発足した「大学改革委員会」のなかに社会貢献に関する小委員会が設置された。そこでエンパワーメント・センター構想の検討が開始されたのである。小委員会に集まった5人のメンバーは、不謹慎かもしれないが、「どうせ忙しくなるのであれば、楽しいことの検討に時間を使おう」という点で意見が一致していた。

もうひとつの、より重要な要因は、「悩める」卒業生の存在だった。研究室を訪ねてくれる卒業生は思いのほか多い。卒後3年くらいで進路に迷い始める卒業生、出産・育児や介護と仕事の両立に苦労している卒業生たちを前にして、私たちは卒業生のために大学は何ができるかを考えるようになった。こうして、卒業生を主な対象としつつ、地域貢献の拠点としての機能も有するエンパワーメント・センターというイメージが徐々に形作られていった。

当初の構想は、5つのユニットを核としていた。心理相談ユニット(2009年に「心理臨床センター」として一足早く実現された)、就職・転職・再就職する女性を対象としたキャリア形成ユニット、子育て中の女性を支援する育児支援ユニット、女性がより良い老後を送るためにエイジング・ユニット、女性とその家族が自分自身で良好な心身の状態を維持管理・回復することを目的とするウエルネス・ユニットの5つである。しかし、このエンパワーメント・センター構想は、陽の目を見ることはなかった。2005年に、大学が独自の牟礼キャンパス再開発を断念し、法政中学高校に土地を売却したためかもしれない。

エンパワーメント・センターの検討が再開されたのは2009年である。断続的な活動を経て、2011年に将来計画推進委員会のもとにワーキング・グループが設置され、2012年にはエンパワーメント・センター検討委員会、ついで準備委員会が組織され、本格的にセンターの実現に向けた動きが始まった。キャリアに関するエンパワーメント、共生社会の担い手を育成するエンパワーメント、女性研究者研究活動支援事業を3本の柱とする現在の形が確定したのも、この時である。

振り返ってみると、多くの方々が力を合わせた結果として、初めてエンパワーメント・センターが誕生したことがよくわかる。ここで、お一人だけ名前を挙げて、感謝の意を表することをお許しいただきたい。村松安子名誉教授はアメリカで展開されたエンパワーメントの考え方を私たちに紹介してくださり、理念的な支柱を提供してくださった。残念ながら、先生はセンター開設の直前に亡くなられたが、ご遺志による寄付は、大学からの予算に加え、センターの初期の活動を支えてくださるものでもあった。エンパワーメント・センターはこれから新たな試みを積み重ね、卒業生のために、さらに広く地域の女性のために、みんなで力を合わせ、ともに力をつけることができる心楽しいセンターであり続けるだろう。